親鸞仏教センター

親鸞仏教センター

The Center for Shin Buddhist Studies

― 「現代に生きる人々」と対話するために ―

公開講座画像

親鸞仏教センター所長

本多 弘之

(HONDA Hiroyuki)

 親鸞は、師法然の選択(せんじゃく)本願の教えを受けて、それを「他力」であるといただいた。その他力は、人間のもっている諸条件を突破して、一切衆生に成仏への根拠を平等に与えるのだ、と。「賜(たまわ)りたる信心」とは「他力が自己にはたらいてくること」の事実であろう。信心とは他力のたまものだと気づくことができたことなのである。

 その他力の信心が『浄土論』の「回向門」の成就であると気づいていくのに、幾ばくかの沈潜の時間があったかも知れない。しかし、他力が単に自己の外に止まるのでなく、自己の内にはたらいてくることで、自己の内に無限なる大悲へのうなずきが起こるのだという受け止めから、「二種の回向」への帰入が夢の中での聖徳太子からの語りかけとして与えられたのであろう、と思う(「聖徳皇のおあわれみに 護持養育たえずして 如来二種の回向に すすめいれしめおわします」など「皇太子聖徳奉讃」〈『真宗聖典』507〜508頁〉参照)。自分の中にそうなのではないか、という思索が深まって、夢による告げが現前してくるのであるに相違ない。

 『選択集』の付属(ふぞく)を受けて、新しい名(「名の字」)を師からいただくまでの時間は、三ヵ月ほどあったのであろうが、この時間が「選択本願」の再確認から「二種回向」への展開の時間だったのではなかろうか。後序(『教行信証』、『真宗聖典』399頁)の語る「夢告」は、親鸞に「二種回向」こそが「本願他力」だと告げる聖徳太子の夢だったのではないか、と推察するのである。このことを師に申し上げたことから、新しい名「親鸞」を源空自ら書いてくださった、と『教行信証』の撰述の事由に書き置いたのではなかったか。『教行信証』の撰集(せんじゅ)者の名が「親鸞」なのだから。

 いうまでもなく、この「名の字」が「善信」であると考えることは、錯誤(さくご)であると思う。

 「釈の綽空」という正名を改めて、師源空が書いてくださったと書いて、これが源空「七十三」の歳であり、『選択集』を書写し、真影を図画(ずえ)したことは「専念正業の徳」であり、「決定往生の徴(しるし)」であり「悲喜の涙を抑えて由来の縁を註(しる)す」のだとまで書いた親鸞が、数年の後に自分で勝手に師からいただいた仏弟子の名前を改めて「釈親鸞」と名告ったのだという理解は、宗祖親鸞を冒涜(ぼうとく)するものといってもよいのではないか。そもそも、仏門に帰することを許されて、師から仏弟子の資格とその名をいただいてきたのが、仏弟子の伝統であり、法名の意味であったのだから、自分勝手に法名を名告ることなどあろうはずがないではないか(「善信」は生涯にわたって「房号」としてもちいられた名前なのである)。

(2009年4月1日)

最近の投稿を読む

公開講座画像
第230回「法蔵菩薩の精神に聞いていこう」①
親鸞仏教センター所長 本多 弘之 (HONDA Hiroyuki) 第230回「法蔵菩薩の精神に聞いていこう」①  親鸞聖人のお言葉には、人間存在のもつ実相への深い洞察とそこから染み出てくるような懺悔の心が感じられる。このことには、その背後に『大無量寿経』にまで煮詰められた大乗仏道の菩提心の歴史があるのであろう。総願から別願を開示して、この大乗の菩提心を掘り下げるべく歩みを進めるところに、「法蔵菩薩」なる人間像が生み出されてきている。...
公開講座画像
第229回「悲しみを秘めた讃嘆」⑬
親鸞仏教センター所長 本多 弘之 (HONDA Hiroyuki) 第229回「悲しみを秘めた讃嘆」⑬  本願によって衆生に開かれる「宗教的実存」とは、いかなる構造として表現し得るものであろうか。その構造解明の手がかりを、横と竪という菩提心のありかたから探ってみた。そして我らに開かれる信心の意味に、この世での生き方に対して、超越的で立体的な空間として本願の信仰空間と言うべきありかたが、教えられていることを了解した。...
公開講座画像
第228回「悲しみに秘めた讃嘆」⑫
親鸞仏教センター所長 本多 弘之 (HONDA Hiroyuki) 第228回「悲しみに秘めた讃嘆」⑫  我らの現実の生存において、宗教的実存を求めてこれを成就するとは、どういうことであろうか。本願の仏教では、阿弥陀如来の本願を信じ、自己の有限なる生存をそのままにして(煩悩具足と信知して)「浄土」に往生し、阿弥陀如来の苦悩の衆生を摂取せんとする志願に随順して衆生済度の志願を輔翼することである、と教えられている。この願心に随順することによって、阿弥陀如来と平等なる仏陀(諸仏)になる、と願われているのである。...

テーマ別アーカイブ