親鸞仏教センター

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The Center for Shin Buddhist Studies

― 「現代に生きる人々」と対話するために ―

Interview 第19回 安丸良夫氏「親鸞思想の現代的意義」前編

日本思想史・一橋大学名誉教授

安丸 良夫

(YASUMARU Yoshio)

Introduction

 2016年4月、戦後日本の歴史学において、一つのエポックを切り開いた人物が逝去した。

 ――安丸良夫。丸山眞男に代表される「近代化論」への批判から歩みを始め、生涯にわたり「民衆思想史」のフィールドを開拓し続けた歴史家である。

 本インタビューは、安丸氏が亡くなる前年(2015年6月22日)、氏の自宅を訪問し、「現代と親鸞」という視座のもと聞き取りをしたものである。インタビューにあたっては、当方からの「安丸先生における「親鸞問題」をお聞きしたい」との要望に対し、氏からは「最終的には親鸞と現代のような問題に絞り込みたいのですが、自分の人生史に即した回り道をするのが、ぼくにはやりやすい」という応答とともに、①私の出自と育ち(自分のものの考え方の背景説明)、②歴史研究者としての問題意識の特徴や方法論、③親鸞宗教思想の現代的意義、という三つのテーマが提示された。

 当日の聞き取りは約二時間半に及び、①では、研究活動の基点となった「通俗道徳」論※の発想の具体的な契機は、真宗篤信地域である故郷(富山)での生活体験と大本教の研究であったこと、②では、その「通俗道徳」論を出発点にして、百姓一揆(いっき)や自由民権運動など、他のさまざまな問題を展望していったという研究活動の軌跡について語っていただいた。本稿では、それに続けて話された③の報告をする。

 なお、掲載にあたっては、ご遺族にご了承いただくとともに、当センターと安丸氏との間を架橋してくださった繁田真爾氏に編集の協力をしていただいた。

(名和 達宣)

 

【今回はインタビューの前編を掲載、後編はコチラから】

温暖化(CO2)の問題とテロの問題

 

安丸  先日(2015年6月7日~8日、於 ドイツ・エルマウ)開かれたG7のサミットで、CO2の削減について同意がなされました。それは、2050年までに40~70%を削減し、今世紀末までにほとんどゼロにするというものです。大幅な削減をということになると、エネルギー供給の仕方を、化石燃料から何か別のものへと根本的に転換しなければならないということになります。そういうことがグローバルに共同で同意できるのか。空気は流れているから、一部でやるだけではだめなのですね。

 いわゆる近代化の産業革命というものが行われるようになってから約百年の間に、世界の平均気温は0.6度上昇したそうです。日本は産業化が進んでいるので、その1.5倍ぐらい、1.14度上昇したそうですね。そういう気温の上昇が気候変動を引き起こしているということは、我々は皆感じていることです。夏は非常に暑かったり、雨がすごい豪雨になったりしているわけです。しかし、世界的に見て、CO2を今世紀末までに大幅に減らすことができるかどうかと言うと、これはかなり難しい問題です。政府間パネルではそういうことを主張しているし、G7も建前上はそういうことを認めているわけですけど、実際にはかなり困難で、口先だけになる可能性が相当あるわけですね。

 CO2の排出量が大きいのはアメリカと中国ですが、最近では中国がアメリカを抜いて1位になったかもしれないらしいです。その理由は、中国の北のほうとか寒い地方から石炭がたくさん採れ、その石炭はCO2の排出量が非常に大きいからです。しかし、中国の北のほうや西のほうは相当寒い。そこで簡単に暖を取るためには、石炭を燃やして部屋全体を暖めるのが一番簡単で、安上がりなわけです。もし人間の一番基本的な欲求が、暖かい部屋に住んでお腹一杯食事ができて、安全に生活できるということだとすると、中国で差し当たって石炭を主要な燃料にするということが、何か人間の最低限の権利のような気もするのですね。だから、一方では資本の論理というものがあり、他方では人々の生活欲求というのがありますから、削減は口先ではともかく簡単に実行はできないわけです。しかし、それを実行しなければ、かなり悲惨なことになるというふうに言われています。

 また、もう一つの例として、テロの問題も似たような問題だと思います。世界史の大きな流れとして根本的に変わったことは、大国が世界大戦のような大きな戦争をするという時代が、どうも終わったのではないかと私は思うのです。それよりも、テロとの戦争というものが主要な形態になりつつあるのではないだろうかと。これは素人考えですけれど、私はそう思っています。例えば、現在の大きな問題として、イスラム国がありますね。イスラム国は確かに我々の価値観から言うと、相当乱暴なところがあって、簡単に同意はできない。しかし、同意できないから軍事力で排除することができるかと言うと、それはなかなか難しい。大国同士が戦争するという、第一次大戦や第二次大戦に対し、ゲリラ戦争というものは、片方には装備の非常に厳重な、しかし死にたくない軍隊があり、片方には自爆テロに代表されるような、武器は貧しいけれども、命懸けで戦う人たちがいるという、非対称的な二つの力の戦いになるわけです。ゲリラ戦争は昔からありましたが、最近はそういう傾向が非常に強くなりました。

 だから戦争というのは、公平な戦争はもともとないとも言えるけれど、現在は非対称性が極限まで拡大しているので、戦争としては非常にゆがんだかたちになっているということになるのではないでしょうか。そういうふうにして、テロ対反テロの弾圧という二元的な対抗関係がだんだん拡大していき、暴力に報いるには暴力というふうに、ますます泥沼に入り込んでいくと思うのです。

 温暖化の問題にしろ、テロの問題にしろ、基本的にはそれは人間が作り出したものです。温暖化の問題は安らかで豊かな生活をしてみたいという、ごく平凡な人間の欲求が基礎にあります。テロの問題もやはり、テロはいけないものだと、それを排除したいという願望が社会のなかに強くあって、そういう人々の願望に基づいて、テロに対する強硬策が取られていく。そして、そういうものがだんだん拡大されていくという傾向にあります。そうしますと、いろんな重大な問題があって、それらの問題は、ある意味では自然現象のような場合もあるけれども、どうも自然現象と人間の活動が結びついたようなところで起こっているのではないかと思うのです。だから、そういう意味では、人間の在り方の全体の反省が求められているということになるのではないでしょうか。ここでのポイントは、人々のごく平凡な欲求というものが基礎にあって、それがいろいろ複雑な過程を経て、大変困難な問題を生み出しているということです。

(文責:親鸞仏教センター)


後編に続く

安丸 良夫(やすまる よしお)

 1934年富山県に生まれる。1953年京都大学文学部史学科入学、1962年京都大学大学院文学研究科(国史学専攻)博士課程単位取得退学。名城大学助教授を経て、一橋大学助教授、同教授。早稲田大学大学院客員教授などを歴任。一橋大学名誉教授。日本思想史専攻。2016年4月4日逝去。

 主な著書に『日本の近代化と民衆思想』(青木書店、のち平凡社ライブラリー)、『出口なお』(朝日新聞社、のち岩波現代文庫)、『神々の明治維新』(岩波新書)、『近代天皇像の形成』(岩波書店、のち岩波現代文庫)、『〈方法〉としての思想史』(校倉書房)、『文明化の経験―近代転換期の日本―』(岩波書店)、『安丸良夫集』(全6巻、岩波書店)、『戦後歴史学という経験』(岩波書店)など多数。

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