親鸞仏教センター

親鸞仏教センター

The Center for Shin Buddhist Studies

― 「現代に生きる人々」と対話するために ―

『アンジャリ』WEB版(2022年2月1日更新号)

中村玲太顔写真
〈いのち〉という語りを問い直す
特集趣旨 〈いのち〉という語りを問い直す PDF版をDL 親鸞仏教センター嘱託研究員 中村 玲太 (NAKAMURA Ryota) ■特集の趣旨  いのち(命・生命・イノチ・寿))―の次に続ける言葉は何ですか。「大切」?それとも「矛盾」?  私たちは「いのちという矛盾」を生きているように思います。大いなる、しかし個性も名前もないいのちれたいのはに対して、いまここを生きる「私」の誕生。大切にされたいのはいのちなのか、私なのか。私という個としてのいのちと、大いなるいのちを生きつつ、ここには調和されない緊張関係があるのではないでしょうか。そして、私を生きる以上、避けることのできない罪悪、いのちがいのちを害さずにはいられない、という問題。この罪悪の私は大切なのだろうか。...
anjyari41
いのちの境界線で
いのちの境界線で SF作家 飛  浩隆 (TOBI Hirotaka) ■特集を捉える[総説]   「死にたいなんて言うなよ」   「諦めないで生きろよ」   そんな歌が正しいなんて   馬鹿げてるよな  2021年の「紅白歌合戦」で流れた「命に嫌われている。」(作詞・作曲カンザキイオリ)は、この特集の冒頭の設問を繰り返すかのように、「命という言葉」と「僕らの生」とのへだたりを歌う。...
anjyari41
誕生を祝うために
誕生を祝うために PDF版をDL 京都大学大学院法学研究科教授 森川 輝一 (MORIKAWA Terukazu)  誕生日おめでとう、とわたしたちは言う。家族や友人に、ときにはその日初めて会った人にさえ、わりと気楽にこの言葉を差し向ける。しかしわたしたちは、この言葉でいったい何を祝っているのだろうか。そもそも誕生とは、どういうことなのか。...
anjyari41
子どもたちの幸せのために
子どもたちの幸せのために 龍谷大学経営学部准教授 竹内 綱史 (TAKEUCHI Tsunafumi) ■特集を捉える [森川輝一「誕生を祝うために」へのコメント]  森川氏の論考は短いながらも内容がとても豊富で、少子化問題やジェンダー論といったアクチュアルなテーマを視野に入れつつ、〈いのち〉の誕生をどう考えるべきかについて、複層的な思索が展開されている。大変啓発的で私としても論旨には基本的に賛成であるが、二点、気になったことを書き留めておきたい。...
anjyari41
ヒトのイノチのその先に
ヒトのイノチのその先に PDF版をDL 声優、日本SF作家クラブ会長 池澤 春菜 (IKEZAWA Haruna)  わたしたちの誰もが持っていて、でも誰もそれがなんなのか本当には知らない。大事にしなければいけない、何よりも価値がある、と言われていても、何故なのかはわからない。一番身近で、でも一番謎めいているもの―命。...
伊藤真顔写真
SFのSは、セイメイのS?
SFのSは、セイメイのS? 親鸞仏教センター嘱託研究員 伊藤  真 (ITO Makoto) ■特集を捉える[池澤春菜「ヒトのイノチのその先に」へのコメント]  池澤春菜氏の「ヒトのイノチのその先に」では、冒頭で「テセウスの船」という命題が紹介されている。「船の部品を一つずつ入れ替えていく。すべて新しい部品となった船は、果たして元の船と同じと言えるのか。その部品でもう一つ船を作った場合、それは新しい船か、それとも元の船か」。ローマ時代のギリシャ人哲学者プルタルコスが提示し、近代の哲学者たちまでが取り組んだ問題だ。SFでは脳と体を別のものと入れ替えたり、脳をコンピュータなどに複写・転写する技術などのストーリーを通じ、「何をもって、命と、人とするのか」、さらにAIや機械が生命を持ち得るかというテーマを考えさせてくれると池澤氏は言う。私も一人のSFファンとしてルーディ・ラッカーの『ソフトウェア』(ハヤカワ文庫SF、1989年)などが思い浮かぶが、仏教的な面でも刺激を受けた。...
anjyari41
いのちの否定と肯定
いのちの否定と肯定 PDF版をDL 大阪教育大学教育学部教授 岩田 文昭 (IWATA Fumiaki)  浄土教にはいのちを否定する面と肯定する面がある。自己を罪悪深重の凡夫として捉え、この世を穢土として否定する面とともに、浄土に往生する救いの法を教え、凡夫の身をそのまま肯定する面である。このような浄土教の救いの法は、時代を越えるものである。...
anjyari41
「ヤー」と「イーアー」
「ヤー」と「イーアー」 龍谷大学経営学部准教授 竹内 綱史 (TAKEUCHI Tsunafumi) ■特集を捉える [岩田文昭「いのちの否定と肯定」へのコメント]  いつ頃からか、私は「いのち」という言葉が大嫌いである。「生命」とか「生」といった言葉は問題ない。平仮名で「いのち」と書いてあると、どうしても警戒してしまうのだ。なぜか。それは、「いのち」という表記を見ると、まず間違いなく「イイ話」が語られることが予想され、しかも、その「イイ話」の背後には無数の苦しみが隠れているにもかかわらず、万事オッケーであるかのような語り、万事オッケーでなければならないかのような語りになることがほとんどだからだ。そういう語りは不誠実なのではないか(注1)...
anjyari41
日本仏教における「慈悲殺生」の許容
日本仏教における「慈悲殺生」の許容 PDF版をDL 龍谷大学文学部特任准教授 大谷 由香 (OTANI Yuka) ―目の前にまさにこれから大量殺人を犯そうとする者がいる。彼を殺せば多くの命が助かるだろう。しかし多くの命のために彼を殺すことは許されるのか―  釈尊が涅槃に入られてから500年ほど経った頃、釈尊が前世になさっていたような慈悲にもとづく実践を通じて、釈尊が到達したのと同じさとりを得ようというムーブメントが起こったと伝わる。いわゆる大乗仏教の興起である。前世の釈尊は「菩薩」と呼ばれていたから、大乗仏教の担い手にとって、菩薩こそ理想的な修行者像であった。菩薩として生きるためにはどうあるべきなのか、当時作られた仏典のいくつかには、その指針となる「菩薩戒」が示される。...
anjyari41
先徳との「対話」を目指して
先徳との「対話」を目指して 花園大学文学部教授 師  茂樹 (MORO Shigeki) ■特集を捉える  [大谷由香「日本仏教における「慈悲殺生」の許容」へのコメント]    哲学者の河野哲也は「思考とは、他者から発せられる多様な声を自分のなかに取り込み、そのあいだの対立や闘争やすれ違いを取り持ち、それらの声を交渉させ、調停し、まとめたり、和解させたりして関連づける」という「本質的に政治的な活動」だと言う(『じぶんで考えじぶんで話せる―こどもを育てる哲学レッスン』河出書房新社、2018)。仏教者にとって「自分のなかに取り込」むべき「声」は、まずもって仏典に説かれる先徳たちの様々な言説ではなかろうか。...
投稿者:shinran-bc 投稿日時:

いのちの境界線で

飛浩隆

SF作家

飛  浩隆

(TOBI Hirotaka)

■特集を捉える[総説]

  「死にたいなんて言うなよ」

  「諦めないで生きろよ」

  そんな歌が正しいなんて

  馬鹿げてるよな

 2021年の「紅白歌合戦」で流れた「命に嫌われている。」(作詞・作曲カンザキイオリ)は、この特集の冒頭の設問を繰り返すかのように、「命という言葉」と「僕らの生」とのへだたりを歌う。

 この歌は、もとはボーカロイド——命なき歌い手のために書かれた。

 私SF小説を書く者としてここへお招きいただいたわけだが、池澤春菜氏の論考にあるとおり、SFはとっぴな題材や設定、自然科学の冷徹さを用いて、くりかえし「命」の既成概念にゆさぶりを掛けてきた。

 SFの中で人類が滅亡したのは一度や二度ではない。サイボーグ化や遺伝子操作で知力体力を増強し「人類でないもの」に変化することもたびたびある。「人間によく似ているが人間ではないもの」(たとえば鉄腕アトムや、映画「ブレードランナー」に登場するレプリカント)も枚挙にいとまがない。スタニスワフ・レムの『ソラリス』は生命の概念そのものを大きく拡大し深い衝撃をもたらした。

 SFはそうやって、ふだんは見えない「いのちの素顔」を見ようとしているのだ。

 しかしいま、われわれはSF作品の外で、そんな「揺さぶり」を見ているように思える。

 2020年と2021年は、気候変動がもたらす数々の災害と新型コロナウイルス感染症が、我々の脳裡に「滅亡」の二文字をちらつかせた。SNSとフェイクは人々の認知を振り回し、傷心と分断を広げて已まない。ロボット工学は軍事転用され、無辜の死者を大量に生むだろう。受精卵のゲノム編集はもう可能だ。生命は情報的に編集可能となり、まもなく非生命との境界があいまいになるだろう。いま「いのちの素顔」は水面の波紋のように危うくゆらめいている。

 いのちは祝福だと思いたいけれど、それはやはりフィクションだから、貧困と孤立が深まり反出生主義がつぶやかれる時代では、たやすく剝がれ落ちる。カンザキイオリはそれを「嫌われている」と表現し、しかし歌の最後で「嫌われながらも生きる」可能性を見出した。

 その望みを私たちに歌いかけてくれるのはボーカロイド——命なき歌い手だ。

 たぶんこの先しばらく、人間は、そのような「命なき者」の力を借りながら、世界との関係修復を試み試み生き延びていくだろう。たとえば——

 未知の感染症を鎮圧する。気象の未来を予測し、経済活動と折り合いをつける道をさがす。経済の果実を分配し、かつて友人だった敵と停戦する。もしかしたら和解する。

 そのうち、人類は自分たち以外の生命を宇宙のどこかに見出すかもしれない。

 そんな瞬間を書き留めた、チャーミングな短編小説をご紹介したい。

 柞刈湯葉(いすかりゆば)の「人間たちの話」だ(同題の短編集がハヤカワ文庫から刊行されている)。

 火星のとある岩石の隙間で生じている化学反応と、それを観測し分析する科学者の群像、そのひとりの私生活を描くこの作品のタイトルが、なぜ「人間たちの話」なのか、読みすすめることで、少しずつ少しずつ、しみとおるように理解されていく。

 いのちが祝福だというのはフィクションだが、じぶんや他人を祝福するためには、やはり生きていなければならない。この年末、本作を読み返してそんな当たり前のことを思った。池澤春菜さんが紹介した名作といっしょに、この作品の名も記憶してくださるとうれしい。

(とび ひろたか・SF作家)

近著に『SFにさよならをいう方法』(河出書房新社)等。

他の著者の論考を読む

中村玲太顔写真
〈いのち〉という語りを問い直す
特集趣旨 〈いのち〉という語りを問い直す PDF版をDL 親鸞仏教センター嘱託研究員 中村 玲太 (NAKAMURA...
anjyari41
いのちの境界線で
いのちの境界線で SF作家 飛  浩隆 (TOBI Hirotaka) ■特集を捉える[総説]   「死にたいなんて言うなよ」...
anjyari41
誕生を祝うために
誕生を祝うために PDF版をDL 京都大学大学院法学研究科教授 森川 輝一 (MORIKAWA Terukazu)...
anjyari41
子どもたちの幸せのために
子どもたちの幸せのために 龍谷大学経営学部准教授 竹内 綱史 (TAKEUCHI Tsunafumi)...
anjyari41
ヒトのイノチのその先に
ヒトのイノチのその先に PDF版をDL 声優、日本SF作家クラブ会長 池澤 春菜 (IKEZAWA Haruna)...
伊藤真顔写真
SFのSは、セイメイのS?
SFのSは、セイメイのS? 親鸞仏教センター嘱託研究員 伊藤  真 (ITO Makoto) ■特集を捉える[池澤春菜「ヒトのイノチのその先に」へのコメント]...
anjyari41
いのちの否定と肯定
いのちの否定と肯定 PDF版をDL 大阪教育大学教育学部教授 岩田 文昭 (IWATA Fumiaki)...
anjyari41
「ヤー」と「イーアー」
「ヤー」と「イーアー」 龍谷大学経営学部准教授 竹内 綱史 (TAKEUCHI Tsunafumi)...
anjyari41
日本仏教における「慈悲殺生」の許容
日本仏教における「慈悲殺生」の許容 PDF版をDL 龍谷大学文学部特任准教授 大谷 由香 (OTANI...
anjyari41
先徳との「対話」を目指して
先徳との「対話」を目指して 花園大学文学部教授 師  茂樹 (MORO Shigeki) ■特集を捉える...
アンジャリWeb20220515
『アンジャリ』WEB版(2022年5月15日更新号)
『アンジャリ』WEB版(2022年5月15日更新号) 目次 「として」の覚悟――大乗仏教を信仰すること...
anjyari41
『アンジャリ』WEB版(2022年2月1日更新号)
『アンジャリ』WEB版(2022年2月1日更新号) 目次 〈いのち〉という語りを問い直す 特集趣旨 〈いのち〉という語りを問い直す...
anjyari_w_02
『アンジャリ』WEB版(2021年5月15日更新号)
『アンジャリ』WEB版(2021年5月15日更新号) 目次 亀裂のなかで生きること 亀裂のなかで生きること...
anjyari_w_01
『アンジャリ』WEB版(2020年6月15日更新号)
『アンジャリ』WEB版(2020年6月15日更新号) 目次 〈個〉から数へ、数から〈個〉へ――パンデミックの只中で...
投稿者:shinran-bc 投稿日時:

『アンジャリ』第37号

飛浩隆 掲載Contents

『アンジャリ』第37号

(2019年6月)

■ Contents

本間 美穂 「当事者の声の聞かれ方」

宝生 和英 「強かな中世――真の文化の多様性に向けて――」

栗原裕一郎 「緊縮は人心のデフレ、お金は愛」

山野 浩一 「「吉本隆明」という名の安心感」

佐藤  研 「キリスト教徒の禅」

早坂  類 「的となるべきゆふぐれの水」

■ 連載
■ 巻末コラム

中村 玲太 「無辺の大地を想え」

※一部のコンテンツは無料でPDF版をご覧いただけます(タイトルをCLICK)

コラム・エッセイ
講座・イベント
刊行物のご案内

研究会・Interview
投稿者:shinran-bc 投稿日時: