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ブックレビュー(書評)
2018年11月
『大乗非仏説をこえて―大乗仏教は何のためにあるのか―』
  大竹 晋 著
[国書刊行会、2018年]

 本書の著者・大竹晋氏はこれまで、『唯識説を中心とした初期華厳教学の研究』(大蔵出版)や『大乗起信論成立問題の研究』(国書刊行会)など、多くの学術書を刊行してきた。また、北朝期の中国に伝わった世親(天親・ヴァスバンドゥ)の釈経論の研究にも取り組み、その成果は『新国訳大蔵経』(大蔵出版)のシリーズや単著『元魏漢訳ヴァスバンドゥ釈経論群の研究』(大蔵出版)として結実している。こうした緻密(ちみつ)な文献学的考証に基づいた氏の研究は、今後も学界に大きな影響を与え続けていくことであろう。著者の研究姿勢の特徴は、従来の20世紀型の仏教研究に敬意を払いつつも、研究環境が大きく変貌(へんぼう)した現在の仏教学ないしその研究者がいかなる問いと向き合うべきかを示し、これまで結論に至らなかった難問に結論を示そうとしている点などにあり、その学風は我々後進を導いてくれるものである。

 このたび、ここに紹介する本書は、大乗非仏説をテーマとして、著者が大乗仏教をあらためて問い直したものであり、これを仏教に関心をもつ広い層を対象に問題提起したことが、まず注目されるべきであろう。以上のような学術的研鑽(けんさん)を積まれた著者が、一般書を刊行するのは、『宗祖に訊く―日本仏教十三宗・教えの違い総わかり―』(国書刊行会)に続いてのことであり、これは評者として誠に喜ばしいことである。本書で展開される言説には、浄土真宗として大乗の仏道を探求する我々にとって、耳の痛い内容も若干含まれる。しかし、近世・近代から提起される大乗非仏説といかに向き合い、いかに超克(ちょうこく)するかという課題を提起している点、そしてこの問題に十分な解答を示していなかった――もちろん、向き合ってきたつもりであったにせよ――ことに対する反省を促すものであるという点において、本書刊行の意義があるといえる。また、初期仏教や上座部仏教に関係する書が多く出版される今日の仏教書出版情勢の中で、大乗仏教の存在意義を著者なりに明確にしようとしている点も注目すべきであろう。

以下、ごく大雑把に本書を概観しておきたい。
序 論 大乗仏教は存在意義を求めずにはいられない
第1章 大乗仏教は出自を疑われずにはいられない
第2章 大乗仏教が仏説であることは論証できない
第3章 大乗仏教が悟りを齎すことは否定できない
第4章 大乗仏教は歴史的ブッダへの回帰ではない
第5章 大乗仏教は部派仏教へと還元可能ではない
第6章 大乗仏教は閉ざされた仏教ではいられない
第7章 大乗仏教が加護を得ることは否定できない
結 論 大乗仏教は仏教を越えてゆかずにいられない

 まず第1章・第2章では、仏典に説かれる大乗起源説や近世・近代の仏説非仏説論争を蒐集(しゅうしゅう)・概観する。特に近現代の日本における大乗仏説論を…樟榲大乗仏説論、間接的大乗仏説論、J兮的大乗仏説論、つ怯枦大乗仏説論とに分類し、そのいずれもが論証に成功していないことを指摘する。
 そして第3章・第4章あたりから著者の斬新な知見が開示されていく。まず第3章では、大乗経のみならず阿含経でさえ、仏説であることを論証することが不可能であるという問題を提起し、「体験的大乗仏説論」を提唱する。続く第4章では、大乗仏教の本質は、「歴史的ブッダ」への回帰にあるのではなく、「仏伝的ブッダ」への模倣(まねび)であると論じる。これは、菩薩という人格を主題とした“大乗の仏道”を考えるうえで重要な指摘であると思われる。
 では、その大乗仏教のアイデンティティーとは何かが問題とされなければならない。それが第5章であり、著者が大乗経・論を専門とする仏教学者であるからこそ、その本領が発揮されるところでもある。そこでは、大乗仏教の諸教説の中で、部派仏教へと還元可能な要素と不可能な要素の分析をする。その中、不可能な要素こそ大乗のアイデンティティーになり得るものであるとして、菩薩戒に注目していることは興味深い。大乗仏教は他者を救うためなら、仏伝的故事に基づいて、敢えて歴史的ブッダの教えにすら反して利他を実践していくところに、大乗のアイデンティティーがあることを指摘する。
 第6章では、大乗非仏説論に向き合いつつ、大乗の仏道を探求する浄土系や法華系(特に浄土真宗と日蓮宗系)を事例として取り上げ、聖教量(しょうぎょうりょう)を持ち出すだけではなく、実践や体験などによっても、おのれの主張をすべきであるという課題を提起する。
 最後に第7章では、仏身・仏土の教説に注目し、特に仏国土について、その存在を論証することが不可能であるなら、実践的・体験的に仏土を考えていくべきであると論ずる。

 以上のような、大乗をめぐる著者の問題提起には、さまざまな方面からの反応が予想される。しかし評者は、文献的考証を積み重ねてきた著者が、我々の現実に存在する仏道として大乗を語った真摯(しんし)な提言として受け止めたいと思っている。特に大乗非仏説に対して、歴史的には事実であるが思想・信条としては仏説であるという類の言説は、大乗を語る仏教者がその正当性を確認し合う際の拠(よ)り所にはなっても、それが本当に大乗仏教徒として生きるアイデンティティーになっていたのかという問題があったと思う。著者が本書の特に第5章以降で、大乗のアイデンティティーとして、体験・修行・戒律(菩薩戒)などに注目したことも、行より学に偏りがちだった風潮に一石を投じるものになるかもしれない。以下は私的な反省でもあるが、大乗を探求する日本の仏教徒として、大乗の経・論と向き合うとき、“神話的”“超越的”あるいは“思想的”などという言説のもとに、菩薩道の意義を風呂敷で隠すような読み方をしていなかったか、それによって大乗の仏道が我々に問いかけた教えを見失っていなかったか、あらためてこのような自己点検が必要であると感じた次第である。

戸次 顕彰(親鸞仏教センター研究員)

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