親鸞仏教センター
お問い合わせ
 
「現代を生きる人々」と対話するために
HOME親鸞仏教センター概要アクセスサイトマップ
濁浪清風今との出会い研究活動報告出版物紹介講座案内研究員一覧
 HOME > 研究活動報告 > 近現代『教行信証』研究検証プロジェクト
研究活動報告
近現代『教行信証』研究検証プロジェクト
 2021年8月6日に親鸞仏教センター、真宗大谷派教学研究所、大谷大学真宗総合研究所東京分室と共同でオンライン研究会が開催された。今回は仏教学、とくに天台教学のご専門である天台宗宗典編纂所研究員の栁澤正志氏をお招きし、「日本天台浄土教と『教行信証』」と題した講義をいただいた。古来より日本天台は「朝題目、夕念仏」と言われるように、『法華経』と浄土教は双修のものとして展開される。しかし、鎌倉期の法然や親鸞は「ただ念仏して」と称名念仏を掲げて比叡の山を下りた。同じ浄土教が底流にあるとはいえ、「聖者」か「凡夫」のどちらに重点を置くかに仏道の相違点があったと言える。講師の栁澤氏には、天台浄土教の視点から『教行信証』の思想をめぐるご講義をいただいた。その一部を紹介する。


日本天台浄土教と『教行信証』

天台宗宗典編纂所研究員 栁澤 正志 氏
■ 親鸞在世における日本天台浄土教
 日本天台浄土教から『教行信証』を語る前提として、日本天台浄土教の思想的構造について触れておきます。天台教学は円教(法華)のなかに密教、戒、禅、そして浄土教を包摂し円融しているとするのが基本となります。浄土教との関係で言えば、重要な行である四種三昧は法華思想に基づきますが、その本尊はすべて阿弥陀仏です。また、授戒儀礼における誓願では、極楽往生を遂げ、その後の成仏を願います。また、智顗以来、天台では来世での法華修行の場として極楽を捉えている傾向があります。つまり、法華思想と浄土教を峻別しないのです。

 また、院政期の天台浄土教思想の特徴に観心念仏があります。これは源信の説く観想念仏からさらに進んで、理観を中心とする観心行に念仏を落とし込んだ思想です。唯心思想や法身遍満、真如仏性、さらには天台本覚思想を内包し、己心の弥陀、唯心の浄土を説きます。これは自心のなかに仏や浄土を見出し、それを往生、成仏の因とするものです。

 その典型例としてあげられるのが阿弥陀三諦説です。これは阿弥陀の三字にそれぞれ三諦・三身などの三法の理を配し、それらが円融であるとする名号観です。つまり、名号を称えることで、そこに内在する理を同時に観ずるという事理具足の念仏です。この念仏観は理観を要とすることから、当初は行者を中心に説かれていたと考えられます。法然や親鸞などは天台の念仏を観心念仏と理解していました。
■ 浄土思想の構造的差異と類似性
 日本天台浄土教思想を踏まえ、その見地より『教行信証』を眺めたとき、両者の思想に構造的差違と同時に類似性を見出すことができます。

 仏身論を見てみますと、まず構造的差違とは仏身ならびに仏の在所が挙げられます。親鸞は西方浄土の報身の阿弥陀仏を説きますが、天台では法身である己心の弥陀・唯心の浄土を説くとともに、西方浄土にある阿弥陀仏は応身であると説きます。また、この応身の弥陀は「三身即一」とも説かれますので、法身・報身の弥陀も認めます。一方、法身に対する解釈には類似性が確認できます。親鸞は曇鸞に倣い法性法身と方便法身の二種法身説を採ります。この二つを天台から理解すると、法性法身は理法身、方便法身は智法身となります。方便とは法身の教化活動をあらわす意味で使用されているようで、『一念多念文意』では報身を方便法身としています。天台でいう智法身は自受用身、つまりは報身です。こう見ると親鸞の二種法身説に対する解釈は天台的な法身解釈に近似していますし、天台教学を学ぶ立場からすると方便法身の解釈は自ずと報身になります。

 また、ここで注意すべきは方便法身の意味です。天台では方便即真実と言い、方便には権教の意味の他に、真実に導くための実教という意味を認めています。ですから、方便が必ずしも劣った教えとは捉えません。天台では『法華経』方便品はまさに真実へ導くための方便を明かす章として重視されています。法身の活動に方便の語を用いるということは、親鸞の方便解釈も天台的な真実へ導くという意味が含まれてのことと考えます。

 次に念仏と信心について見てみます。天台の念仏は言うまでもなく自力の念仏であり、自心より発する信心です。一方、親鸞の念仏や信心は往相回向によるものです。信心や念仏に凡夫の行為を消失させ、自身の信心や念仏を仏の作為に置き換えているのが親鸞と言えます。天台的立場からこれを見ると、念仏や信心に聖性、真性を付与していると解釈されます。これらの違いは自力・他力と言われる通りです。

 ところで、観心念仏では「心仏及衆生、是三無差別」と仏と衆生と己心の無差別を論じます。目指すところとは凡聖不二の境地とも言えます。そのため、行者の念仏は凡夫の行為の範疇を超えた真如と一体なるものと捉えます。これは信心も同様です。

 天台は無差別平等の観点から、親鸞は往相回向の観点から、衆生の行為より凡夫性を排除し仏の所為に寄せていきます。ここに両者の共通性が見いだせます。念仏であれ信心であれ、それらは阿弥陀仏や真如仏性などに根源を求められるのであり、阿弥陀仏と相離れることはないと捉えているのは両者に通ずるところと言えるでしょう。
■ 菩提心をめぐる言説への天台の影響
 先に信心の類似点を指摘しましたが、菩提心についても検討してみます。天台からみると親鸞の竪超・竪出・横超・横出の菩提心観は独特なものであります。しかし、ここには天台の影響を感じさせる記述もあります。

 まず、竪超・竪出の菩提心ですが、これは権実、顕密、大小の教という語をもって語られ、歴劫迂回の菩提心・自力金剛心・菩薩大心と親鸞は称します。ここでいう歴劫迂回という考えには、最澄と法然の影響を見て取ることができます。最澄は『守護国界章』で独自の三教判を設えます。歩行迂回道は倶舎・成実、歩行歴劫道は三論・法相、飛行無礙道(大直道)を天台とします。天台が南都仏教を指して批判した言葉が歴劫迂回なのです。これは法然も『選択本願念仏集』で、天台・真言・南都諸宗を歴劫迂回という語を用いて論じています。法然は明らかに最澄の言葉の意味を理解して使用しています。これが親鸞に継承されたとみることができます。

 また、横超菩提心について親鸞は、「これを願作仏心と曰う。願作仏心は、すなわちこれ横の大菩提心なり。これを横超の金剛心と名づくるなり」と『浄土論註』の「願作仏心」という文を援用して論じます。この文は『往生要集』で菩提心を語る際に用いられ、源信が「菩提心はこれ浄土菩提の綱要なり」と語る論拠として重視した一文であります。こうした記述も親鸞の菩提心観形成の過程で参考としていたかもしれません。
■ 現生正定聚と現得不退転
 日本天台浄土教思想と『教行信証』との関係でいうと、『阿弥陀経略記』の現得不退転と親鸞の説く現生正定聚の問題があります。両者を論ずる上で、不退が何を表すのかということが問題となります。現生正定聚は、定義的に説明すれば、現生において次生の往生が確定するということですから、不退は往生からの不退を意味します。

 天台教学から不退転を見てみます。行位から論ずると、不退転を得るのは初住です。また、天台の成仏論は初住成仏です。つまり、行位的解釈では、現生に初住位に入るので成仏してしまいます。それでは往生する必要はありません。では、源信は何からの不退と考えたのでしょう。

 『阿弥陀経略記』の言説で注意すべき点が二つあります。一つは不退を得るのが凡夫という点です。ここでは惑を断じないで不退を得ると説きますが、これは凡夫を対象としたものです。また、三縁具足して聖者の位に昇らずとも不退地を得るとも説いています。三縁とは聞名・願生・一心称念のことで、これは凡夫が可能なもので構成されています。つまり、凡夫身のまま現生に不退を得ると説いているのです。

 もう一つは天台の往生観です。源信をはじめとする天台僧は三生往生と言い、遅くとも三生を経て往生すれば速疾と考えます。必ずしも次生のみが速疾往生とは考えていないのです。すなわち、現得不退転とは凡夫が三生までの間に往生することが現生で決定すると説いているのです。

 両者とも極楽往生が現生で決定することを意味しますが、天台は三生まで、親鸞は次生でと、往生の時節に差違が認められます。これは親鸞が天台との差別化を図り、その優越性を強調しようとしたことによるとも考えられます。

 自力他力という観点からのみでは両者の差違のみが強調されます。しかし、思想を構造的に分析すると両者には類似性が認められるのであり、親鸞の思想形成と日本天台浄土教との関わりを探る糸口になると思います。
Backnember ページトップへ
公開講座 親鸞思想の解明 現代と親鸞の研究英訳『教行信証』研究会
清沢満之研究会 「『教行信証』と善導」研究会会 「三宝としてのサンガ論」研究会」研究会
聖典の試訳『尊号真像銘文』研究会近現代『教行信証』研究検証プロジェクト
親鸞仏教センター研究交流サロン インタビュー
濁浪清風今との出会い研究活動報告出版物紹介講座案内バックナンバー一覧
親鸞仏教センター
MAP
親鸞仏教センターTwitter親鸞仏教センターfacebook

親鸞仏教センター [真宗大谷派]<br>〒113-0034 東京都文京区湯島2-19-11
TEL 03-3814-4900 
FAX 03-3814-4901 
mail:shinran@higashihonganji.or.jp
 
掲載の記事・写真の無断転載を禁じます
Copyright©The Center for Shin Buddhist Studies. All rights reserved.
ホーム 親鸞仏教センター概要 講座のご案内 スタッフ紹介 バックナンバー一覧 リンク サイトマップ アクセス