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研究活動報告
現代と親鸞の研究会
 第67回「現代と親鸞の研究会」では、江原由美子氏(東京都立大学名誉教授)をお招きした。江原氏は、日本のフェミニズム研究の第一人者の一人である。2021年には、1985年刊行の『女性解放という思想』(勁草書房、1985年/筑摩書房、2021年)、2001年刊行の『ジェンダー秩序』(勁草書房、2001年/増補版、2021年)の2 冊が再刊されるなど、その研究のもつ重要性は、古びるどころか、女性の社会進出が官民問わず盛んに唱えられるようになった今こそ、増しているように思われる。今回の研究会では、現代社会の重要な問題の一つであるジェンダーをめぐる問題について、女性解放の権利と獲得を求めるフェミニズムの議論を中心に講義していただいた。
 講題は、「現代社会とフェミニズム」と題された。講義内容は、「第二波フェミニズム」の歴史を中心に、フェミニズムが達成したこと、現在抱えている課題についてであった。以下、講義の概要について、適宜、情報を補足しながら記す。 (親鸞仏教センター嘱託研究員 宮部 峻)
現代社会とフェミニズム

東京都立大学名誉教授
江原 由美子 氏

◆フェミニズムの新たな課題
 「第一波フェミニズム運動」は、女性の参政権の獲得を追求する運動であった。それに対して、1960年代に欧米で始まった「第二波フェミニズム運動」は、女性の社会的地位が向上していないという認識のもと、性別役割分業、ジェンダー差別を問い直す主張であった。1960-70年代の高度経済成長期の日本では、女性の雇用を未婚期に限定するといったジェンダー差別を伴う「日本型雇用慣行」が成立した。日本でも「ウーマン・リブ」と呼ばれる運動がみられたが、大きなものとはならなかった。「女性は家事・育児に専念すべき」という性別役割分業社会は、日本の経済の強みとされることもあり、根強く維持されてきた。

 しかし、バブル崩壊後、経済的不況を背景に、日本社会は、「共働き世帯」を前提とする社会経済へと転換を迫られることとなる。結果的に、性別役割分業社会が揺らいでいくこととなる。ただし、女性の置かれた状況は改善されたわけではなかった。雇用形態を見比べてみたとき、男性と比べて、女性は非正規雇用であることが多い。女性の就業率も就業年数もかなり伸びているが、依然として男女間では賃金格差がある。女性は、なおも厳しい状況に置かれたなかで、就業、結婚、出産にかかわる困難な選択に直面している。さらに、シングルマザーの増加に象徴されるように、新たな課題も生まれる一方、男性でも非正規雇用、独身男性が増加するなど、男性の取り巻く環境も厳しくなりつつある。フェミニズムの課題は、こうした新たな現代社会の問題に答えていくことである。
◆アンチフェミニズムの歴史とグローバル化
 女性解放の権利と獲得を追求するフェミニズムの主張は、現代社会にも有効に思われる。もっとも、フェミニズムの主張は、今なお、全面的に肯定されているというわけでない。フェミニズムの歴史には、「バックラッシュ」(反動・逆流)の存在があった。昨今、メディアやSNSなどでもみられる「フェミニスト嫌い」もその一つである。若い女性の中にも、男女の平等がある程度、達成されたと捉えて、フェミニズムを不要とし、「女性らしさ」に価値を見出そうとする「ポストフェミニズム」的動向がみられるようになったという。また、統計結果からも明らかなように、若い男性を中心として、「アンチフェミニズム」的動向も根強い。政治の場では、男女共同参画社会基本法の制定以降、フェミニズムは伝統的な家族の解体を促進すると主張する保守派の批判も見られる。フェミニズムは、反対派からの批判を受けながら進展してきた主張である。

 近年のアンチフェミニズム的傾向の高まりの背景には、グローバル化の進展に伴う雇用、家族の流動化と不安定化、格差拡大がある。経済的環境の変化とともに、女性の労働力は企業にとっても魅力的なものになり、女性の自立は、ネオリベラリズム的価値観と共振していくようになった。しかし、女性がみな等しく経済的に成功しているわけではなく、女性内での格差が拡大するという事態が引き起こされているという。他方、製造業の衰退に象徴されるように、産業構造の転換により、かつてマジョリティであった男性中間層の没落も進んでいる。男女というジェンダーを問わず、家族と労働で社会保障をもたない人びとが生み出されてきた。こうした男女ともに厳しい環境に晒されている現代社会にどう向き合っていくのか。これは、個人の問題ではなく、社会の問題であり、アンチフェミニズムやポストフェミニズムが見落としている問題である。
◆対話するフェミニズム
 こうした現代社会の状況を踏まえて、江原氏は、「対立から対話へ」と向かうことがフェミニズムにとっての一つの切り札になると考えている。たとえば、トランプ現象にみられたのは、階層下落・失業・男らしさ喪失等の不安に苦しむ人々が「自分を追い越していくマイノリティ」に対して抱えている怒りである。その怒りは、反リベラルに対して、差別主義者というレッテルを貼り、蔑んでいる中流リベラルに対する怒りでもあった。リベラルと反リベラルとの分断が深まる一方、反リベラルの根底にある怒りは、リベラルも向き合っていかなければならない問題である。この分断を乗り越えることは容易ではない。しかし、マイノリティの権利の獲得を目指してきたフェミニズムの課題は、対立を通じて分断を深めることではなく、対話によって現代社会で困難を抱えている人びとと連帯を図っていくことである。ここにフェミニズムの現代的な意義が見出されていく。

 以上が、講義の概要である。1 時間半にわたった講義ののち、質疑応答が行われた。

 質疑応答では、日本の「伝統」的な家族観、国民国家・ネーションの問題、欧米社会と日本社会における運動の歴史の違い、「女子力」の問題、日常生活での実践、トランス・ジェンダーやノン・バイナリーとの関係、男性の家事・育児参加、韓国におけるジェンダーの問題について、議論された。当日は、研究員・事務員のほか、ジェンダー研究に関心のある大学院生も参加した。質疑が多岐に渡っていることからもわかるように、予定していた時間を延長して議論が行われるなど、大変盛況であった。

 本講義で論じられたジェンダーをめぐる問題について、仏教も他人事ではいられないはずである。というのも、少なからず、現代社会のジェンダー的価値観は変容を遂げているにもかかわらず、性別役割分業意識に対して、寺院仏教は保守的な意識をもっていることや、宗門法規の規定など制度慣行が古い価値観に基づいたままであるなど、寺院仏教がジェンダーの問題に対して、十分に取り組むことができていない現状が指摘されているからである(猪瀬優理「戦後の宗教とジェンダー」島薗進・大谷栄一・末木文美士・西村明編『近代日本宗教史 第5 巻 敗戦から高度成長へ——敗戦~昭和中期』〔春秋社、2021年〕、142〜169頁)。

 また、世界的にみても、フェミニズムの主張をめぐって生じてきたバックラッシュには、宗教も関わっており、日本に目を向けても同様の事態は確認される。保守系団体である日本会議による選択的夫婦別姓への反対、ジェンダー教育に対する反対といった主張は、バックラッシュとして位置づけることができるであろう。日本会議には、宗教関係者も多く関わっていると言われている。宗教とバックラッシュの問題は、日本社会でもみられるのである。

 寺院仏教内にジェンダー平等に対する保守的な意識、旧態的な制度慣行の問題が残っているとして、寺院仏教は、他の宗教の反動的主張をどのように考えていくことができるのであろうか。寺院仏教内でも女性差別を考える取り組みが展開されつつある。本講義で示された「対話するフェミニズム」の姿は、決して、仏教者を「あちら側」の世界に押しとどめて議論から締め出すのではなく、ともに課題を見出していくきっかけを作り出していくであろう。

 白熱した本講義の詳細は、研究誌『現代と親鸞』に掲載予定である。開かれたフェミニズムが対峙している問題を読者の皆様と考えるきっかけとなればと思う。
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