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研究活動報告
現代と親鸞の研究会
 2018年10月16日、立教大学客員教授で隣町珈琲代表の平川克美氏を迎えて「21世紀の贈与論」というテーマでご講演をいただいた。平川先生は、日本人が初めて経験する人口減少という現在の局面を移行期ととらえ、長期的に安定的な定常状態まで生活様式を変えていくことが必要だとしている。今回は「贈与」ということをキーワードに、どのような方向で社会のシステムを変えていけばよいのかをお話しいただいた。ここにその一部を紹介する。 (親鸞仏教センター嘱託研究員 大谷 一郎)
21世紀の贈与論

隣町珈琲代表/立教大学客員教授
平川 克美 氏

■ 時代の現状認識
 超長期的な人口推移のグラフを見てみると、鎌倉時代には、大体、750万人程度だった人口が徐々に増えてきて、江戸時代に3,000万人ぐらいになり、江戸幕府が崩壊してから急激に上昇カーブを描いて、1億3,000万人までいき、そこから今度はまた急激に人口が減り始めています。
 私たちは歴史上初めてのフェーズを今、生きようとしているのです。このことに驚くべきなのです。これは、人口が減っていくということに対して、我々の祖先の知識の蓄積がほとんど役に立たないということを意味します。誰も考えたことがないような問題に直面しているときに、私たちは、どういう知性をはたらかせなくてはいけないかという問題なのです。

■ 株式会社というシステムの終焉(しゅうえん)
 現代は、物をたくさんつくり、それをマーケットで売り、それによって文明を発展させていくという社会です。この社会でそれをけん引しているのは株式会社というシステムなのです。株式会社というのは何かというと、資本と経営の分離、つまり、お金を会社とは関係のない人たちから集める仕組みです。なぜ会社とは関係のない人からお金を集めるのかというと、自前では調達不可能な大量のお金を集める必要があるからです。株式会社は、歴史的にみると、大航海時代や産業革命のように社会が人口増大局面になり、マーケットもものすごい勢いで拡大していくという右肩上がりの局面で生まれ、拡大してきました。それが、人口減少局面に入り、経済成長が見込めなくなった今、ここで初めて終わったのです。経済成長が終わるということは、右肩上がりのパラダイムの大本が変わるわけですから、これから考えるべきことは、どうしたら経済成長しなくてもやっていけるかということです。それを考えているときに、ある書物に出会うわけです。

■ 「楕円幻想」との出会い
 花田清輝という人が書いた『楕円(だえん)幻想』という本をあらためてひもといてみました。花田は、きょう冒頭で話した、誰も考えていなかったような課題に直面したときに、我々はどのように問題を設定したらいいのかということを深く考えた人です。彼はこの楕円幻想論で何を書いたかというと、ルネサンスというものについて書いたのです。ルネサンスは再生と訳します。再生というからには、死がある。死があるというからには、再生する前に生きていたものがあるだろう。つまり、ルネサンスは何かが死んでそれが再生されたのだと、そのルネサンス以前のものが、実は再生されたものの中に全部入っているのだという考え方です。
 どういうことかというと、戦後民主主義というものは、実は戦時中にあったものの裏返しにすぎないのだということを考えたのです。戦後というのは、日本の価値観が完全にひっくり返るわけです。戦後は民主主義、戦時中は全体主義です。楕円の中心は一つです。しかし焦点は二つある。私たちの生きている社会は、焦点が二つある楕円のようなものではないかということです。しかし人間というものは、いつも真円にあこがれる。そして、焦点をどんどん近づけて真円になると、一方が一方の背後に隠れるのです。二つ目の焦点がつくっていた真円の上にもう一つの真円が重なって、一つだけしか見えなくなる。これが現代社会です。しかし、その裏側には必ずそれとは別の焦点があるのだということなのです。

■ 贈与経済ということ
 マルセル・モースは『贈与論』で、マオリ族の贈与システムには、人から何かをもらったら、その品と同価値のものを直接その人に返礼してはいけないというルールがあることを述べています。同価値のものを返礼すると、贈与経済ではなく、今の我々の経済である交換経済になるのです。現代社会のモラルは貨幣による等価交換ですが、もらったものと同価値のものを返してはならないというのが部族社会の贈与交換のモラルです。なぜ同価値のものを返してはいけないかというと、それが縁の切断を意味することになるからです。縁を結んでいくためには、常にどちらかがどちらかに何かを負っているという状態をつくることが必要だったのです。等価交換は、関係の精算を必要とするモデルなので、同価値のものを返すということは相手との関係を切るということになります。部族間でそれをすることは、相手との関係性を断ち切って敵対関係に入ること、つまり戦争を意味するのです。
 今の社会においても、例えば介護の問題だとか、医療、教育、宗教、こういった分野は等価交換の経済だけでなく、贈与の経済で全体に分け与えられるというような指向性をもった仕組みによって支えられているものだろうと私は思います。
 つまり、これは花田清輝が言った楕円幻想なのです。我々の社会は、一見、貨幣経済によって完全に蹂躙(じゅうりん)された社会に見えるけれど、実はそれを背後で支えているのは、贈与的な経済なのだということです。この贈与的な経済をもう一回、目に見える場所に引きずり出して、それを利用しなければ、この右肩下がりの時代にはやっていけないということなのです。おそらくこれから私たちが直面するのは大介護時代だろうと思いますが、この大介護時代は、相互扶助的な地域連携システム、つまりは贈与的な全体給付システムを立ち上げていかない限り、乗り越えることができないのではないでしょうか。

(文責:親鸞仏教センター)

平川 克美(ひらかわ かつみ)氏
隣町珈琲代表/立教大学客員教授
 1950年東京生まれ。合名会社隣町珈琲代表、立教大学客員教授、ラジオデイズ特別顧問。
 早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、内田樹氏らと翻訳を主業務とするアーバン・トラストレーションを設立。1999年、シリコンバレーのBusiness Cafe Inc.の設立に参加。
 主な著書は『移行的乱世の思考—誰も経験したことがない時代をどう生きるか』(PHP研究所)、『小商いのすすめ』(ミシマ社)、『俺に似たひと』(医学書院)、『株式会社という病』(文藝春秋)、『移行期的混乱—経済成長神話の終わり』(筑摩書房)など。
 これまで、親鸞仏教センターには、第43回「現代と親鸞の研究会」(2013年1 月22日)、第11回「親鸞仏教センターのつどい」(2014年4 月25日)にご出講をいただいている(内容は『現代と親鸞』第27号(2013年12月号)、『現代と親鸞』第30号(2015年6 月号)に収録)。また、『アンジャリ』第22号(2011年12月号)にご執筆をいただいている。
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